[現代文が苦手な中高生向け] 評論とのつきあい方

 長らく放置していたブログを動かそうとしたら、「現代文」「現代文 授業」といった検索ワードで訪れる方が多く、「現代文」に困っている人が少なくないのかなと思いました。というわけで、教員2年目に、初任校の中学3年生向けに書いた文章(少し加筆修正)を転載します。
 たいしたことは書いていないのですが、それだけにかえってハードルが低く、当時は同僚や生徒にもわりと評判が良かったので、中高生や現場の先生の参考になればと思います。
※評論の書き手を「オジサン」と表現するアイデアは、沢部ひとみ『評論なんかこわくない』(飛鳥新社)から拝借しています。

評論=「オジサンのオジサンによるオジサンのための文章」

 皆さんが高等学校で読む論理的文章は「評論」と呼ばれ、「オジサン」が「オジサン」に向けて書いた文章がほとんどです。「オジサン」とは、年齢や性別のことを言っているのではなく、「ある学問的・専門的分野で業績を挙げ、社会に認められ、社会に対して発言力のある人たち」(哲学者や文学者、科学者、作家といった人たち)です。
 もちろん女性もいるのですが、残念なことに、これまで社会で発言力を持ってきたのは男性が多く、「現代文」として登場する文章も、いまのところは男性の書いたものが多いので、ここでは「オジサン」としておきたいと思います(もちろん、これからの時代は「オバサン」の活躍がますます期待され、増えていくことでしょう)。
  「オジサン」の「オジサン」による「オジサン」のための文章に接するときは、いくつかのコツがあります。

コツその1:「オジサン」特有の言葉(抽象概念)を知る

 評論には様々な分野のものがありますが、どの分野の評論でも使われる言葉があります。「本質」「普遍性」「契機」といった言葉がそれです。こうした言葉は、そのほとんどが漢字で書かれた抽象概念であり、手で触れたり目で見たりすることができないものばかりです。しかし、「オジサン」にしてみれば知っていて当たり前の言葉であり、評論を読むためには、こうした抽象概念を自分のなかに蓄える必要があります。
 抽象概念を蓄えると、自分の世界のまわりにある「目に見えないもの」が見えるようになります
 たとえば、いまここが200年前の米国で、あなたも僕も白人だとしましょう。さて、あなたは、黒人を「奴隷」として使いますか? それとも、そんなひどいことはできないと拒絶するでしょうか。
 僕自身は、残念ながら、たぶん躊躇なく黒人を「奴隷」として遇してしまうと思います。なぜなら、それが当時の米国では「常識」だからです。
 しかし、そんな中でも、「これはおかしい」と気づく人たちがでてきます。そうした人たちが、いま目の前で起きている「おかしなこと」や目に見えない「常識」の問題点を可視化する手立てになるのが、「差別」(discrimination)という抽象概念です。抽象概念のおかげで、目には見えないものが見えるようになるだけでなく、それを他者と共有したり主張したりできます。そして、ときには、目に見えない「常識」を超えたり覆したりする力にもなるのです。

コツその2:「オジサン」特有の話の進め方(論法やレトリック)を知る


  「オジサン」が「オジサン」を説得するときは、感情ではなく、どちらかというと論理的な手段に訴えようとします。
 たとえば、よくあるレトリックとして「たしかにAだ。だがBである」というものがあります。
 「たしかにA」は、「譲歩」とよばれる部分。客観的であることを示すために、いったん他の立場の正しさを一部認めた部分です。もちろん本当に言いたいことは「だが、B」の部分にあります。
 こうしたレトリックを支えるのが、「たしかに」や「だが」といった「表現」です。こうした表現が出会ったら、注意を傾けたり、意識的に先を予測したりする必要があります
 こうした表現を含む一文は、いわゆるキーセンテンス(重要な文)になることが多く、また、キーセンテンスには〝さりげなく〟その文章の書き手が大切にしたい(そして読み手と共有したい)キー概念が盛り込まれていることがよくあります。
 キーセンテンスやキー概念は、「オジサン」が伝えたいことにつながる可能性が高いので、心に刻みながら、読み進めます。

コツその3:長くてしつこい「オジサン」の話についていけるようにする(追跡)


 「オジサン」の話は長くてしつこいので、言いたいことにたどり着くまでに時間がかかります。同じことを何回も述べたり、同じ言葉を繰り返したり、巧みに言い換えたりします。このしつこく長い話に忍耐強くつきあえるか、それらをつなげて読めるかどうかが鍵となります。
 最も簡単でわかりやすいのは、最初に結論があって、理由が「第1に、第2に……」と短く簡潔にまとまっている文章です。しかし、評論の書き手はそういう戦略をあまりとりません。それは、すぐ結論がわかったり理由が明らかすぎたりするとつまらなくなるからです。あるいは、ただ理由を並べるだけでは強引な展開になってしてしまうという場合もあるかもしれません。
 「オジサン」は、多くの場合、読み手の私たちと「謎(問い)」やそれを解決する「プロセス」を共有したいと思っています。その結果、どうしても話が長くなってしまうのです。

コツその4:オジサンの話に興味をもつ(受け止める)


 最後に、「オジサン」には「オジサン」の好きな話題やテーマがあります。
 皆さんの多くが関心を持っていること(たとえば嵐のコンサートがいつあるかといったこと)に「オジサン」がついていけないのと同じように、「オジサン」にも彼らの関心事があります。
 哲学・文学・社会学・科学…いわゆる「学問」の世界の話題が多いわけですが、こうしたテーマを拒否することなく、ときに少し背伸びをしてみながら楽しもうとする姿勢が大切です。
 まず、彼らの話に耳を傾け受け止めようとしてみてください
 そうすれば、とっつきにくかった文章も、少しずつ「学問」の世界へとあなたを誘う手紙のように感じられるようになるはずです。

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