今年からうちの学校に赴任したAさん。僕と同い年なのだけど、演劇部顧問のキャリアが長く、高校演劇の経験もある。
そんなAさんのつながりで、先週、他校も巻き込んで、大池容子さん(青年団・うさぎストライプ)の中学生向けワークショップが実現した。
言葉の力を引き出すワークショップ
ちょっとしたゲームから始まり、基礎練習あり、上演発表あり、創作ありの実に盛りだくさんな一日だったのだけど、特に印象的だったのが、大池さん自作の台本による「嘘を旅するワークショップ」。
ホールの掃除をしている部活の生徒たちの会話が台本の中心で、その台本には、下のようにところどころ空欄がある。
後輩「え? 先輩たちって、卒業したら[ ]行くんですよね?」
(中略)
後輩「なんか、さみしくなっちゃって……」
先輩「え?」
後輩「だって、[ ]行ったら、もう先輩たちと会えなくなっちゃうんでしょ?」
この空欄には、「ヨーロッパ」を入れたり、「群馬」を入れたり、「1000年後の未来」を入れたり、「魔王の城」を入れたりするのだけど、何が入るかによって、「もう先輩たちと会えなくなっちゃう」といった、まわりの言葉の持つ意味合いや手触りが変わる。
なんてことのない先輩と後輩の会話だが、言葉の力が、その言葉だけによって発揮されるわけではないという、当たり前だけど普段意識されないことが実感される台本だ。
ここ以外にも空欄がいくつか仕込まれていて、生徒がそこに何を入れるかによって、世界がいくつも立ち上がる(しかもグループが何人でもできる!)というすごい台本だった。
空間を自由に使い出す生徒たち
今回会場になったのは、いわゆる公共の小さなホールで、椅子も固定された空間だった。
そういう意味ではやや窮屈かなと朝の段階では思っていたのだけど、さにあらず。
一日の終わりにやったこのワークショップでは、客席で演じたり、舞台と客席の高低差や二本の通路をうまく利用したりと、みんな空間を自由に使っていた。
良い作品や演出というのは、空間の使い方にもある種の意味を見いだせたり、観ている方の身体感覚に訴えるものがあったりするものだが、驚くべきことに、このワークショップでも、そんなパフォーマンスがたくさんあった。
すごいな、中学生!!
「ほんと」から始まるワークショップ
中学生のそういう可能性を引き出したもの、それは、大池さんとアシスタントの金澤さんの、丁寧なワークショップの進め方だったと思う。
大池さんは、朝からことあるごとにホール全体を生徒に歩いてもらい、好きな場所を見つけたり、目を閉じて空間を感じたりする時間をとっていた。
朝からずっと見ていると、自分のいる空間の「ほんと」を感じるごとに生徒たちの動きが自由になり、朝にはなかったような動きが出てくる。
「嘘の世界を本当のように見せるには、まず『ほんと』から出発するといい」という大池さんの言葉どおり、空間の「ほんと」を感じると、表現の可能性が拡がるということを一日かけて見せてもらったような気がする。
ここには書かないけど、ワークショップでは、空間の「ほんと」だけでなく、時間や言葉、さらには他者の「ほんと」を感じる仕掛けもたくさんあったように僕には見えた。
そうした「ほんと」の丁寧な積み重ねがあってこその「嘘を旅するワークショップ」だったのだと思う。
自然体であること
ところで、大池さんも金澤さんも、「自由に動いて〜」のような〈指示〉とか、「いいね〜、それ」のような〈評価〉とか、そういう言葉をあまり口にしていないように感じた。
なんというか二人とも自然体で、このお二人が「ほんと」の存在として、僕たちの前にいらしたのが、表現の可能性を引き出す上で、実は一番大きかったのかもしれない。
(いま書きながら、ハンナ・アーレントの「現れの空間」という概念を思い出した。)
最近の自分は、良かれと思ってあれこれ力んでしまって、かえって生徒のストッパーになってないだろうか。もう少し、自然体でありたいなぁ……お二人を見ながら、そんなことを感じる一日だった。
[…] 。練習会を企画した学校の先生が、当日実施したうさぎストライプのオリジナルワークショップ「嘘を旅するワークショップ」についてブログでご紹介くださいました。ブログはこちら。 […]
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